中峰明本筆尺牘
- 人物
-
作者中峰明本
- 年代
-
制作年 AD13
- タイトル
- チュウホウミョウホンヒツセキトク
- 寸法
- 34.3×55.5
- 材質・技法・形状
- 紙本墨書
- コレクション
- センチュリー赤尾コレクション
- 所管
- 斯道文庫 キャンパス 三田
中峰明本〈ちゅうほうみょうほん・1263-1323〉は、元時代を代表する禅僧。浙江省銭塘(せんとう)の人。高峰原妙〈こうほうげんみょう・1238-95〉の法を嗣ぐも、定住することなく、時に舟中に、時に庵室に起臥して、自らそれをもじって幻住(げんじゅう)と称した。わが国から入元して教えを受けた僧も多く、その筆跡は早くから請来されている。起筆や終筆に力を抜いた独特の書風は、筆線がまるで一枚の笹の葉を並べたように見えるところからわが国においては「笹葉(ささっぱ)中峰」「中峰の笹の葉書き」と呼ばれ、茶人たちに親しまれた。この尺牘(せきとく・漢文の手紙)は、中峰が霊室副使(れいしつふくし)という役人に宛てたもの。まず、翰墨(かんぼく・手紙)に添えて贈られた珍しい品物に対する礼を述べ、ついで副使が新しい住居へ移ったことへの祝意を捧げる。そして、為政者たる者、莫憎愛(まくぞうあい・嫌うことも愛することもなかれの意)の心で政事をおこなうよう、龐居士(龐蘊〔ほううん〕のこと。唐代の人で、禅旨に通じ僧形をとらなかったため、中国の維摩居士〔ゆいまこじ〕と称えられる)の例を引いて、世間の義捐金など当てにせず、為し難きことを為してほしいと要望した。「八月二十三日、明本謹んで、霊室副使翰相(かんしょう)閤下に書す。明本、昨、便に因って具状(書状でつぶさに上申する)を試み、聊か旋山を伸ばすの由、政に軽懐(けいかい)を以て負媿す(恥じる)。而るに僧通偕郁居士(つうかいいくこじ)至って翰墨及び珍貺(賜物)多品を捧出す。益(ますます)法愛の栄を見、領外慚感(りょうがいざんかん)に勝えず。就いて審かにするに、新宅に栄迁(=遷)し、瑞慶駢び臻る(行く先に手が届く)。且は未だ尺箋(せきせん)克くせず賀仰を致す。惟みるに閤下の心道に存し、塵寰(じんかん・人間世界)を識達し、見聞知覚迥然(はるかなるさま)として超詣(ちょうけい・すぐれて造詣が深い)せんことを要す。但知ること莫れ、速やかに順境に対して愛憎を為さず看津することを。而して能く一貫して践履(経験)の実ありや否や。要は此に在(あ)り。倘(も)し能く力を其の中に致さば、則ち久久殊勝。政に捐界の資を待たず、直ちに龐老の轍(前代の遺法)を造り、不難を為さん。茲(ここ)に人の旋扶(せんぷ)に因らん、憊函(はいかん)此を具して餘懐を復す。尚免禁(めんきん)を嗣がんことを需む。丐(こ)うらくは道照せよ。不具。/明本謹書して、令兄実梁提挙(じつりょうていきょ)の前に復し奉り、別の状に及ばず。坐間乞うて引下すれば誠に乃ち幸いなり」
八月廿三日明本謹書霊室副使翰相閤下明本昨因便試具状聊伸旋山之由政以軽瀆負媿而僧通偕郁居士至捧出翰墨及珍貺多品益見法愛之栄領外不勝慚感就審栄迁新宅瑞慶駢臻且未克尺箋致賀仰惟閤下心存道要識達塵寰見聞知覚迥然超詣但莫知対違順境不為愛憎看津而能一貫否践履之実要在于此倘能致力於其中則久久殊勝政不待捐界資直造龐老之轍為不難矣茲因人旋扶憊函具此以復餘懐尚需嗣免禁丐道照不具明本謹書奉復令兄実梁提挙前不及別状坐間乞引下誠乃幸
中峰明本(ちゅうほうみんぽん)(1263-1323)は中国元代の禅僧。生涯大寺の住持にはならず、天目山(浙江省)に幻住庵という庵を構え弟子を育てた。「笹っ葉中峰」とあだ名される独特の書風で知られる。
本作品は、庵のある地域の役人から手紙と贈り物があったことへのお礼を兼ねて、禅の教えを説いたもの。
「常盤山文庫×慶應義塾 臥遊─時空をかける禅のまなざし」展(2023.10 慶應義塾ミュージアム・コモンズ)図録 掲載
八月二十三日、明本は謹んで霊室様にお手紙を差し上げます。昨日、ずうずうしくもお手紙で帰山を知らせたところ、僧通が郁居士とともに来て、彼らからお返事と素晴らしい贈り物を受け取り、仏法を大事になさっていることに感激しました。新居に移られたとのこと、お祝い事が重なったのにもかかわらず、まだ祝賀の手紙を出していませんでした。あなた様を拝見しますと、仏道の肝要を心得、俗世を遠ざけ、全て見ること聞くこと凡人とは隔絶していますが、まだ順境にも逆境にも愛憎を超えた平常心で向かい合い、肝心のところを見て揺らがない、というところまでは至っていないのではないでしょうか。そこに努力することができれば、大変素晴らし
いことです。寄進などせずとも、(出家せず俗人のままに悟った)龐居士(ほうこじ)の境地に達するのはたやすいでしょう。そちらへ戻る人に託して、病を押してふたたび筆を取りました。またお便り申し上げます。なお、お兄様へのお返事は改めてお出ししませんので、これをお見せ下されば幸いです。
「常盤山文庫×慶應義塾 臥遊─時空をかける禅のまなざし」展(2023.10 慶應義塾ミュージアム・コモンズ)図録 掲載
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- タイトル(英題)
- Letter by Zhongfeng Mingben
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