装飾成唯識論巻第五断簡
斐紙(雁皮紙)に金銀の切箔を散らし、とくに天地(界の上下欄)には金銀の子を霞形に撒いた上に、さらに金銀の小切箔を撒いた華麗な装飾経である。金泥で引かれた界の中に書写される経文は、『成唯識論』(全10巻)巻第五の部分。『成唯識論』は、インド唯識思想(あらゆる存在はただ識、すなわち心にすぎないとする見解。自己の心のあり方をヨーガの実践を通して変革することによって悟りに到達しようとする教えを説く)にもとづくもので、法相宗の根本経典である。わが国では、南都仏教の主流であった法相宗が唯識派を奉じたため、興福寺・元興寺・法隆寺・薬師寺などを中心にこの経典の書写が行われた。この写経もおそらくこれら南都のいずれかの大寺に常備すべく企図されたもので、もとは1部10巻でつくられたものにちがいない。中村雅真〈なかむらまさざね・1854-1943〉の小札には「興福寺春日経」とあり、この断簡が興福寺伝来であるいう。切断される以前の巻子の奥書に、興福寺伝来を示す識語があったのかもしれない。装飾の技法が、文永7年〈1270〉の筆者目録を付属する「慈光寺経」(装飾法華経)に共通するところから、この書写年代を鎌倉時代・13世紀後半に求めることができる。鎌倉時代の装飾経の遺品として貴重な存在である。
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- タイトル(英題)
- Segment of Decorated Discourse on the Theory of Consciousness Vol.5
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